提供者:Artur Roman

前回までイギリスと日本の救貧制度の流れについて記事を書いてきました。

今回は生活保護法制定の流れについて簡単にまとめていきたいと思います。

その前に簡単に近年の生活保護のデータをみていきたいと思います。

生活保護は2016年のデータでは約210万人約165万世帯(この2つの数字から見ても明らかに単身世帯が多い)で近年増加傾向にあるとのことです。

少し細かくみると

市部 > 郡部 (スラム街は都市部で起こる)

高齢世帯が約半数で最も多い(医療扶助に関する費用が多くかかる)

非稼働世帯が圧倒的に多い(ゆえに下記)

・保護の開始理由は貯金等の減少喪失が多く、廃止理由は死亡が最も多い

このような傾向がみられます。

また2018年に生活保護法等の一部が改正されました。

・進学準備給付金(2018年10月施行)

→ 生活保護世帯の子どもが大学等に進学した場合に新生活の立ち上げ費用として一時金を給付

・後発医薬品の使用促進(2018年10月施行)

→ 原則としてジェネリック医薬品による給付

・貧困ビジネス対策と、単独での居住が困難な方への生活支援(2020年4月施行)

→ 無料低額宿泊所について規制強化

→ 単独での居住が困難な方に対し、良質な施設において日常生活上の支援を提供する仕組み

・健康管理支援事業(2021年1月施行)

→ データに基づいた生活習慣病の予防等、健康管理支援の取り組みを推進

これらは改正の一部ですが、このような改正が行われました。

~ 参考文献

図解説明でそのまま使える 社会保障制度 指さしガイド(2018年度版)

いとう総研編 日総研出版 P190生活保護のデータ、P196生活保護法等の改正(2018年)

※指さしガイドはとてもわかりやすく説明が書かれておりオススメ◎です。

生活保護の近年の概要について簡単な紹介でした。

前置きが長くなりましたが、生活保護法の制定の流れについて確認していきましょう。

※前回記事(恤救規則 → 救護法 → (今回ここから)旧生活保護法 → 新生活保護法)

※福祉事務所について(生活保護等について事務を担う)

旧生活保護法について

SCAPIN775

時代は終戦後です。日本には戦災者、引揚者、離職者など生活困窮者が大量に出ました。

それに対応するため政府は「生活困窮者緊急生活援護要項」を1946年4月から実施することにしました。

しかしこれは臨時的なものであったので、今後の計画「救済福祉ニ関スル件」をGHQに提出。

そしてGHQはこの返答として救貧福祉の最高規範となる「SCAPIN775」という指令を発しました。

SCAPIN775の原則として

①困窮者に対して平等に食糧、衣料、住宅ならびに医療を提供する単一の全国的政府機関を設立すること

②1946年4月30日までに当計画に対する財政援助ならびに実施責任体制を確立し、私的・準政府機関に委譲・委任してはならないこと

③救済の総額に制限を設けないこと

これら3原則が掲げられたとのことです。

旧生活保護法の概要

SCAPIN775は、「公的責任原則」と「無差別平等(旧軍人を優先しないよう)」を厳格に指示しました。

この指令を受けて「(旧)生活保護法」が1946年10月に施行されたのです。

被保護者は約270万人に及んだとのことです。

また保護の種類として

①生活扶助

②医療

③助産

④生業扶助

⑤葬祭扶助

※救護法では①から④の4種類

の5種類の扶助がありました。

しかしこの生活保護法は、生存権保障の国家責任という理念にそぐわないものであったようです。

一番の特徴として旧生活保護法には「欠格条項」がありました。

①能力のあるにもかかわらず、勤労の意思のない者、勤労を怠る者そのほか生計の維持に努めない者

②素行不良な者

これらについては保護しないということが2条に書かれていました。当初は無差別平等というものは、平等に保護するという意味で、権利が平等にあるというわけではなかったのです。

それゆえに保護の実務にあたる方面委員(後の民生委員)による判断がゆがめられる危険性もあったとのことです。

このように旧生活保護法はGHQのSCAPIN775の指令を受けて制定されたものでありましたが、内容は国家責任について書かれていないことや欠格条項があったなどあり、1950年に「(新)生活保護法」として生まれ変わるのです。

新生活保護法について

新生活保護法の目的

1949年に「生活保護制度の改善強化に関する勧告」が行われました。

①国家責任によって保障される最低生活水準は憲法25条にいう健康で文化的なものであること

②生活に困窮した国民の当然の権利として保護を請求できることを明らかにし、不服がある場合の権利保障の措置を明らかにするもの

③保護の欠格条項を明確にし、恣意的な運用がなされないようにすること

その他保護の実務には専門資格をもつ職員(後の社会福祉主事)が携わることなど書かれていたなど勧告は多岐に渡ったそうです。

そうして旧生活保護法は廃止され、新法として1950年に新生活保護法として生まれ変わったのです。

そして新生活保護法では

①最低限度の生活の保障

②自立の助長

この2つが目的として掲げられ、それは現在も続いているのです。

このように「救済福祉ニ関する件」 → 「SCAPIN775」 → 「旧生活保護法」 → 「新生活保護法」という流れで戦後まもなくに生活保護法が制定されたのです。

原理

生活保護法の流れについて以上となります。

合わせて押さえておきたいものとして原理や原則についても簡単にまとめていきたいと思います。

・原理

①国家責任の原理

→ 最低限度の生活保障と自立の助長

②無差別平等の原理

→ 国民全員が保護の請求権をもつ

※もし請求が却下された場合、不服申立て(都道府県知事)をすることができる

③最低生活保障の原理

→ 国民一般の生活水準との見合いにおいて合理的な水準

※米の現金給付のように、単なる生存に必要な生活保障ではない

また生活扶助基準の算定方式として

・標準生計費方式(1946年~1948年)

→ 軍事扶助法の基準を利用

・マーケットバスケット方式(1948年~1960年)

→ イギリスのラウントリー(ヨーク市)の貧困調査で用いた手法

・エンゲル方式(1961年~1964年)

→ 1960年朝日訴訟の翌年にエンゲル方式に改められる、また1960年前後は社会保障体制が国民皆保険皆年金となり、保護を回避できる者も出てきた。

・格差縮小方式(1965年~1983年)

→ 高度経済成長期、格差を縮小させることに成功

・水準均衡方式(1984年~)

→ 現在はこの方式

というように算定方式は何度も変更されております。これは絶対的貧困から相対的貧困へと変化していったとも言えるでしょう。

これは「相対的剥奪」を提唱した「タウンゼント」をはじめ、「豊かな社会の中で比較して貧困である」という見方がされるようになりました。なので、昔の人はもっと貧乏で大変だったから、それに比べたら今はまだましであるという考え方は現代では通用しないのです。

④補足性の原理

→ 保護を受ける前に本人の持っている資産や能力といった「その他あらゆるもの」を活用(他の制度も含め)活用すべきで、それでも最低生活基準に届かない場合に不足分を補う程度の保護をするということ

これはイギリスの救貧制度の歴史を辿るとよく理解できると感じます。

以上が保護の原理になります。

次は原則です。

原則

原則

※また原理と原則の違いについて、原理(例外なし)原則(例外あり)となっております。

①申請保護の原則

→ 申請によって手続きが始まる(本人、扶養義務者、同居の親族等が申請人の範囲)

例外:急迫した状況にあるときは申請手続きなしに保護を行うことができる

②基準及び程度の原則

→ 最低限度の生活と抽象的に規定し、その水準については厚生労働大臣が決めることができる。要保護者の持つ金銭や物品では満たせない不足分を補う

※ちなみにアメリカでは国が定める水準の他、州による水準もあるとのことです。日本は国家責任の原理のもと、国が水準を定め、都道府県知事は定めることはできません。

③必要即応の原則

→ 要保護者のニーズの個別性を認識してそれに応じて行う(厚生労働大臣の基準にも及ぶ)

※②と③の違いについて、②は「測定的」に対して、③は「ニーズや個別性」という点に着目すると見わけやすいと思います。②を踏まえて画一的なことなく実情に応じた保護をすべく③を規定している流れ。

④世帯単位の原則

→ 保護は世帯を単位とする

例外:それが難しい場合は個人を単位とします。一緒に生活している世帯主が生活費を渡さないことで貧困になる場合もあるからです。

以上が原則になります。

保護の内容と扶助の種類

保護の原則は変わらず「居宅保護原則」になります。

しかし状況によっては施設保護も行われます。

〇施設保護

・救護施設(生活扶助)

・更生施設(生活扶助)

・医療保護施設(医療扶助)

・授産施設(生業扶助)

・宿所提供施設※読み:しゅくしょ(住宅扶助)

とあります。

また扶助の種類について

①生活扶助

→ 基本的な部分

②医療扶助(現物)

→ 診療、薬剤、手術、入院等

③出産扶助(旧生活保護では助産扶助)

→ 医療保険では保障されない助産の費用

④生業扶助

→ 職業訓練や就職支度費用など

※高等学校等就業費用は教育扶助ではなく生業扶助となります。しかし授業料無償化に伴い授業料(公立学校分)は実質支給はなくなりました。ただそれ以外にも費用はかかるというのと、私立の場合は公立高校の授業料しか出ない(あとは私立学校ごとの対応)という点も押さえておくといいかもしれません。

⑤葬祭扶助

→ 保護を受けていた人が死亡した際の埋葬費用

旧生活保護法でもあった①から⑤に加えて

⑥教育扶助

→ 子どものいる家庭のみ必要なため別立て、義務教育を受けるにあたって必要な教科書代や学用品、給食費、通学費など(高校は生業扶助に分類)

⑦住宅扶助

→ 持ち家でも老朽化すれば修繕が必要、また賃貸は地域差があるため別立て

さらに介護保険法の成立によって

⑧介護扶助(現物)

→ 介護保険サービス、福祉用具など

これら8種類が扶助となっております。医療と介護は現物で、その他6つの扶助は現金給付となります。またどれか一つだけ限定して適用ということなく複数適応されることもあります。

以上生活保護の基本的な事項としてまとめになります。

まとめ

いかかだったでしょうか。

生活保護制定の主な流れと、生活保護法の概要について簡単なまとめでした。

歴史の中では暴力団の不正受給による規制が行われるなどの出来事もありました。

また過去には不正受給は過去最多というニュース記事をみかけることもありました。

しかしそれも実は生活保護不正受給費用は減少しているなど、報道と事実をきちんと見極めることが必要です。

しかも不正受給の多くは働いたお金の無申告ということならば、自立に向けて頑張っている人へ報酬があれば申告して報酬をもらうという見方を教えてくれているのかもしれません。

ファクトフルネスの本が話題になりましたように、情報社会において事実を見極める力は重要になってきます。

以上「生活保護法の制定の流れ」と「概要」の2つに触れた記事となりましたが、歴史の流れについて感じるとることができたらと思っております。

用語や制度について単語のように単に知識を得るだけでなく、その背景にある部分も着目することで内容がよりよく理解することにもつながります。

また今「申請主義の壁」という課題があります。

申請主義の壁によって人々の生活や生命が脅かされることについて、ソーシャルアクションを行っている団体です。

ポスト申請主義を考える会 https://peraichi.com/landing_pages/view/posshin

よろしければ、こちらのリンクも大変参考になるので是非ともオススメします。

申請主義、スティグマなど生活保護はとても難しい制度だと思います。

ここまで読んでいいただきありがとうございました。次回もまたよろしくお願いいたします。

参考文献 社会福祉政策 坂田周一著 有斐閣アルマ

第4章 公的責任の確立と生活保護制度 2.公的責任原則の確立、3.新生活保護法の概要

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