診断主義アプローチ編

リッチモンド

ソーシャルワークの入り口として欠かせない人物がいます。それがメアリー・リッチモンドです。リッチモンドは「ケースワークの母」と呼ばれ、1917年に「社会診断」を発表し、ケースワークを社会学的に体系化そして理論化を試みました。やがてケースワークはフロイトの精神分析理論の導入へつながり、「診断主義派ケースワーク」と呼ばれていきます。

リッチモンドは1861年に生まれました。しかし両親を子どもの頃に亡くしております。16歳で学校を出た後、事務の仕事を経て28歳に慈善組織協会の会計助手として仕事がスタートしました。そこがリッチモンドの人生の転機となり、その後瞬く間に才能が開花され、知識と経験は急速に成長し、ソーシャルワーカーの研修まで行うようになったそうです。

リッチモンドはソーシャルワークのプロセスを概念化していきます。

①社会状況も含むケースに関する事実を集める。

②事実と問題の性質をベースにした社会診断が行われる。

③利用できる社会資源の調査が行われる。(利用できる援助、支援、協力も含む)

④処遇計画が作成され実施。(お金、道具、研修も含む)

このようなプロセスの流れは現代にもつながっております。

リッチモンドは1917年に「社会診断」を発表し、その後1922年に「ソーシャルケースワークとは何か?」を発表します。そこではケースワークの理念を提示しております。

①ケースワークとは個人とその環境との間に働きかける調整作用である。

②ケースワークは個別的に行う調整作用である。

③ケースワークの過程は結果を見通して行われる。

④ケースワークの過程の最終目標は人格の発達(パーソナリティ)におかれなければならない。

このようにリッチモンドはケースワークにおいて個人とその環境の関係という視点を重視しておりました。しかし一方でこの時期は心理学の導入がまだなく、問題やプロセスにケースワークが関心を向けざるを得なかったという指摘もあるようです。

そうしてやがてケースワークは、フロイトの影響を受け精神分析理論が導入されていくことになります。

※+α:ここでは表記していませんが初期のケースワークは「ケース・ワーク」のようにケースとワークが分離されていたとのことです。

精神分析理論

1920年頃からソーシャルワークは精神分析的精神医学と心理学に関心を寄せていくことになります。すなわち焦点が問題から人へと移り変わっていったようです。最終的な人格の発達に向かうためには、クライエントの心や動きを理解することが重要だったとのことです。

そうしてソーシャルワークはエス・自我・超自我や自由連想、防衛機制といった言葉が新しく付け加えられていくようになります。

トーキングキュア

フロイトは臨床家でありました。患者との臨床経験の中で、悩みについて話すことそれ自体が援助になるという考えが生まれていきました。

物語はブロイアーによる若い女性、アンナ・Oに対する治療の再説明である。彼女はおそらく以前に受けた何らかの心理学的外傷が原因となっている多数の身体症状に苦しんでいた。治療の間に、アンナは時々強い感情を表出した。ブロイアーとアンナは、彼女が破壊的な情緒について話すにつれて、症状が消えるようにみえることに気づいた。

ソーシャルワーク理論入門 デビット・ハウ著 杉本敏夫監訳 (株)みらい 5精神分析理論 P44より

こうしてクライエントが話し、よく考える機会が治療にもなるという考え方が発展していきます。そしてそれは臨床家のみならずソーシャルワーカーにとっても当てはまるものであり、次第に精神分析がソーシャルワークに導入されていくことになります。

エス・自我・超自我

フロイトは心の構造論というものを明らかにしました。フロイトはヒステリー患者から無意識(抑圧されていて意識化できにくい心の部分)を見出し、適切に説明できるようエス・自我・超自我の3つからなる構造論を唱えたのです。

エスとは生物学的、本能的、欲動的なもので快感原則に従い、その満足を求め、時間を持たず、論理性や社会的価値を一切無視するものである。

それに対し、自我はエスの意図を満足させつつ、現実の社会に適応できるように調整する働きを担っている。

超自我は自我を監視する道徳的な両親や罪悪感、自己観察などの働きをすると考えられる

(小此木啓吾、1978)

改訂版臨床倫理学概論 放送大学客員教授 山梨英和大学大学院教授 馬場禮子 財団法人放送大学教育振興会 4 臨床心理学の理論的背景(3)精神分析と分析心理学 P48より

このようにフロイトは無意識の領域について考えていく中で、イド(幼児的・衝動的・非合理的・非社会的・利己的)を社会的に適切な形で満たす自我(思考・計算・運動・知覚・記憶)、そして自我を監視する超自我(道徳的・禁止・抑圧・力の圧力)の3つの言葉と心的装置のモデルを生み出しました。

私たちはこの3つがバランスよいときは良好な精神状態であることができます。しかしこれらのバランスが極端に崩れた場合には一つの例としてナチスのユダヤ人大量殺戮が起こったこともフロイト理論から捉えることもできるようです。このように超自我は必ずしもエスと対立しているわけではないことも重要なポイントです。権威的で支配的な両親をもった人は支配的で抑圧的な超自我を形成する傾向も一つとしてあるようです。

防衛機制

心的装置のうち自我には危機状況を予期し、不安を感じる機能があります。そしてそれらの不安を回避するために防衛機制というメカニズムがあります。防衛機制は自我が危機状況の接近の合図を不安としてひきおこして、エスが危機状況から逃れようとする心の動きのことを言います。

以下主な防衛機制についてです。

抑圧:意識していると苦痛、不快、不安、罪悪感など否定的感情を体験せねばならない記憶や観念を無意識化してしまう自我の無意識的働き。

置き換え:ある観念や記憶に向けられていた関心や感情を、自我に受け入れられやすい他の観念などに向けること。

退行:直面せねばならない苦痛に対し、以前の発達段階に幼児帰りを起こすことによって回避しようとする働き。

反動形成:抑圧を維持するために、反対の態度を取ること。例えば憎しみを強く感じている人に、過剰に親切に振る舞うことで憎しみの感情を抑圧すること。

投影:自己の欲動や観念を外界のものとして認知する規制。

取り入れ:相手の一部を自己に取り入れて真似ること。

同一化:対象の属性を自己の中に取り入れ、自分のものとすること。

隔離:ある出来事に伴って起こる感情を切り離し、両者を隔離することで不安や苦痛から逃れる心理機制。

衝動の自分自身への向け換え:外に向けられた衝動を自己へと方向転換すること。

昇華:欲動や衝動が直接的満足以外の社会的、文化的価値のあるものを生み出す活動であり、文化、芸術、学問の基礎となる心理機制。

改訂版臨床倫理学概論 放送大学客員教授 山梨英和大学大学院教授 馬場禮子 財団法人放送大学教育振興会 4 臨床心理学の理論的背景(3)精神分析と分析心理学 P49、50より

以上が代表的な防衛機制になります。

またこれらの防衛機制のうちいくつかをもう少しだけ詳しくみていきます。

・抑圧

抑圧するということは、自我のエネルギーの一部を使って絶えず意識の外に押さえつけなければならないこと(忘れる・無意識領域に追いやる)になります。

そのため抑圧し過ぎる場合においては、自我全体の力を弱めることにつながり、そのような人は日常生活において引っ込み思案で、固く、緊張しており口数も少なくなるとのことです。もはや楽しみや快適に向かって使うエネルギーが残っていないことを意味するのです。

しかし一方で抑圧はある程度においては誰もが行っているものであり、パーソナリティの発達においても必要なものでもあるようです。

・反動形成

反動形成は例を挙げると、憎悪を押さえるため愛情を、頑固さを押さえるため従順さを、残忍さを隠すためにやさしさを、その人を恐れるあまりに親しくしようと振る舞うなどといったような反対のものを強調して自我を危険から守るメカニズムのことです。

またこれは超自我の形成とよく似ているとのことです。例えば弟妹が生まれた幼児が、母親の関心を奪われるのではないかと不安になり弟妹を排除する行動をとるが、母親から叱られることで、次第に敵意を抑圧し弟妹を可愛がることで母親からの関心を確保できるようになるなど、欲動を押さえる中で道徳的な体系が形成されていくものでもあるようです。

・投射(投影)

自分の心の中にある不安や危険よりも、外界に原因のあるものを処理する方が気楽で安心ということから、自我が不安を感じたときに、原因を自己以外のものに求め不安をやわらげる防衛のメカニズムになります。

無意識において「私は彼を嫌っている」にもかかわらず「彼は私を嫌っている」と思うことや、幼い子が叱られたとき「ほかの子がやった」と主張するなども投射の例です。このように不安を他人のせいにしてやわらげることで、これもまた無意識のうちに営まれるものになります。

・退行

退行はいわゆる幼児の赤ちゃん返りのように過去の発達段階に戻ることで欲求の満足を図る無意識のメカニズムのことを言います。また不満のために危険な運転をすることや、酒に酔って乱暴すること、心が傷ついた人が夢の世界に閉じこもることも全て退行になります。

そしてこれは心的装置がある発達段階にとどまって、それより先に発達していこうとしない「固着」の傾向が強い人にみられる現象のようでもあります。固着には、進学したが不安のために前の学校に通っていた友人とばかり遊び、以前の行動様式を変えないことで不安を避け自我を防衛するといった例があります。

・昇華と置き換え

この2つは欲動エネルギーが方向を変えて、それ以外の対象に向け換えられて代償的な満足を得るといった同じメカニズムでありますが、この代償の対象がより高い文化的目標である場合は昇華となります。このように防衛機制には、昇華のように望ましいものもあります。

防衛機制については以上になります。

自由連想法

フロイトはヒステリー患者が自身の外傷体験をなぜ忘れるのかについて考えを巡らせておりました。そして通利法や回想強制法、自由連想法というものよってそれらを思い出す働きかけを経て、最終的には「忘れたいから忘れていた」という結論に行き着きました。忘れ去られているものは恐ろしい体験や苦痛、恥ずかしい体験であり、それらを忘れたままにしようと押さえつけることを「抵抗」と呼び、それが後に先ほどの「抑圧」につながっていきます。

ここで出てくる回想強制法とは、催眠術を駆使してやっと到達した内容も患者は本当は知っているはずであったとのことから、力づくでそれらを思い出させる方法でした。しかしこれには多大な労力と時間を要することから、正反対の方法として自由連想法が生まれていきます。

自由連想法は、心にゆとりを持って緊張感がない状態をつくり、頭に浮かぶことを何でもありのままに語るという手法です。その人の語りに対して無意味であるとか関係ないといったことを思わず、自由連想法を繰り返す中で、情報が自然と特定のテーマに向けられていることに気づく独自の手法として発展していきました。この本質的に患者任せな手法は労力がはるかに少なくてすみました。

心理療法には「カタルシス(浄化)の作用」というものがあります。安心し、自由な気持ちで自分を語る中で、気持ちが軽くなったり、自分を責める力(超自我)が弱まることで自己肯定感が増してくるなどの作用のことです。このようにありのままに自分を語ることは、自分を見つめ直し、援助や理解が進むことにつながります。そしてそのためにはその人が警戒心や緊張感がない状態で自由に語ることのできるよう、聴く側の傾聴の姿勢や、価値評価や批判をしないなどといった心の姿勢が必要となってきます。

転移と逆転移

転移とはクライエントがセラピストまたはソーシャルワーカーに対して抱く感情や見立てのことを言います。これはクライエントがこれまでの人生で関わる重要人物(例:両親や権威者など)の影響が大きく、それらの人物に重ね合わせてしまう(移し替えられている)ことで起こるものです。

またセラピストやソーシャルワーカーに対して厳しい人と見立てる転移を陰性転移、やさしく親切な人と見立てる転移を陽性転移、両方が強くなりすぎることを転移性抵抗と呼びます。そしてセラピストやソーシャルワーカーは、クライエントに対してこれらの転移というものがどのように影響をもたらしているのかを理解するよう援助し、理解が進む中でクライエントの他者への態度が変容していくとのことです。

一方で転移に対して逆転移というものもあります。これはセラピストまたはソーシャルワーカーがクライエントに抱く感情や見立てのことを言います。またクライエントに対する自分の感情に気づくことは、クライエントの何が自分(我々)をそうさせているかを知る手がかりとなる意味でも重要とされております。

心理社会的アプローチ

診断主義派の流れはその後ハミルトンやトール、ギャレットらによって理論化され、フローレンス・ホリスへとつながっていきます。ホリスは心理社会的アプローチを確立し「ケースワーク:心理社会療法(1964年)」を著しました。この著書はケースワークの金字塔と言われるほど名著となっているようです。

ホリスは「状況の中の人間(person-in-his-situation)」という視点からケースワークを捉えました。「人」と「状況」と「その両者の相互作用」といった個人と全体との関連性での考え方は後の生態学モデルの先駆けとなったとも言われるようです。

また心理社会的アプローチの重要な価値として5つが挙げられております。

①ワーカーは、クライエントの福祉に心を注ぎ、関心を寄せ、尊敬することによって、クライエントを受容すべきである。さらに、これにはクライエントに対する暖かい感情も含まれている。

②ワーカーはクライエントのニーズを優先させるような「相手中心」の関係であるべきである。

③ワーカーは評価や応答する場合、個人的な先入観を取り除いて、できるだけ科学的な客観性によってクライエントを理解すべきである。

④ワーカーは、クライエントが自分自身で決定する権利があることを認め、また、彼には自己思考の力があるので、それを引き出すよう努力すべきである。

⑤ワーカーはクライエントと他者との相互依存を認めるべきである。またクライエントの自己指向性については、他者あるいは自分自身を傷つけるような場合、制限を加える必要があることを知っておくべきである。

ソーシャルワークの実践モデル 心理社会的アプローチからナラティブまで 久保紘章・副田あけみ 編著 川島書店 第1章心理社会的アプローチ P6より

このような価値に基づいて、援助はクライエントのニーズに沿って個別的に行われます。そして「人」、「状況」、「その両者の相互作用」にシステム的考え方で変化を起こさせることが援助の目的となっております。この心理社会的アプローチは直接援助技術の領域に位置し、臨床ソーシャルワークとも呼ばれているそうです。

また心理社会的アプローチはケースワークの過程は全て処遇計画の中になると強調し、これまで伝統的な診断主義の援助過程がインテーク → 診断 → 処遇であったのと異なる考え方を示したようです。心理社会的アプローチの詳細はまた別の機会として簡単ではありますがここまでの紹介とさせていただきます。

まとめ

以上診断主義アプローチについての流れと概要についてまとめていきました。

知識と技術は一緒である。

制度や法律も当然大切でありますが、やっぱり心理学や社会学、理論といった知識も必要不可欠です。

例えば実際の現場で児童虐待の対応に直面した時に児童虐待防止法を活用して援助を展開するかどうか、精神疾患を含めた生活困難を抱えた患者を目の前にして福祉六法を思い浮かべるかどうかを考えた時に、やはり心理学や社会学の知識、また理論も必要であることが認識されることでしょう。

またこれは相談援助のみならず、施設の支援現場でも有効な知識であり、もっと言えば福祉外の領域においても有効な知識でもあります。

根源から辿る。

哲学の世界でハイデガーはカント → ロック → アリストテレスではなく、アリストテレス → ロック → カントの順で根源から辿るという視点を持っていました。

今後も不定期でありますが理論について辿っていく予定です。是非よかったら一緒に学んでいきませんか。

もし参考になったと思われる方は身近な方に是非シェアをしていただけると嬉しいです。

ここまでご覧いただきありがとうございました。次回もまたよろしくお願いします。

〇参考文献

・ソーシャルワーク理論入門 デビット・ハウ著 杉本敏夫監訳 5精神分析理論

・ソーシャルワークの実践モデル 心理社会的アプローチからナラティブまで 久保紘章・副田あけみ 編著 川島書店 第1章心理社会的アプローチ

・改訂版 臨床心理学概説 放送大学客員教授 山梨英和大学大学院教授 馬場禮子 財団法人放送大学教育振興会 4 臨床心理学の理論的背景

・精神分析入門 牛島定信 放送大学客員教授 東京女子大学教授 日本放送出版協会 8パーソナリティを理解する 9精神分析療法の実際

・フロイト 鈴村金彌 著 清水書院 Ⅱフロイトの思想

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