機能主義アプローチについて

機能主義アプローチとは

機能主義アプローチはフロイトの弟子であったドイツの精神分析家オットー・ランクにより理論が形成され、後にアメリカでジェシー・タフトバージニア・ロビンソンらによってソーシャルワーク実践に取り入れられた理論です。

ソーシャルワーク理論の歴史において、1940年代を中心に診断主義派(フロイト派)機能主義派(ランク派)は長らく主権を巡り対立が起きました。そして対立を経て1960年代にはスモーリーの再構築期を迎えるという流れがあります。

機能主義アプローチの主なポイントは「ランクの意志療法」「機関の機能に焦点化」「過程を重視」といった点があります。また診断主義派については過去記事がありますので是非ご覧になってみてください。

それでは確認していきましょう。

診断主義と機能主義の比較

まず本題に入る前に診断主義と機能主義の比較から確認していきます。

1940年~50年代には「大分裂」として診断主義派と機能主義派による主導権争いが続きます。以下診断主義と機能主義の比較図になります。

診断主義派「クライエントの過去」に焦点を当てました。

フロイトの「無意識」という言葉から捉えられるように今につながる過去の出来事に気づき、受容し、その壁を乗り越えることが求められておりました。

そのためソーシャルワーカーは「膨大な生活歴から情報を集めること」を通じて、診断や治療を行うことが責務とされておりました。

これは一方で、早期に解決に至ることはまれだったようで、終結に辿り着かない膨大な調査を業務として行い、診断の段階で停滞し治療へと進展しないことが多かったという見解もあります。

それに対し機能主義派「クライエントの現在」に焦点を当てました。

ランクの意志心理学では「”人間は本来創造的な力を持っており、それゆえに分離を乗り越えて自力で自分の生き方を創っていける”」という考え方を軸に据え、クライエントの持っている「意志(will)」を引き出すことを目的とされました。

そこではクライエントの生活歴や幼少期の体験は、現在を侵害しているときのみ重要で、かつクライエントとソーシャルワーカーが現在の問題の一因となっていると「意見が一致する場合」にのみ分析の対象となりました。

このように診断主義派と機能主義派は「過去(過去から現在)」「現在(今、ここ)」という大きな異なる視点があったのです。

またその他、診断主義派と機能主義派の比較として、アプテガーは両派の統合への試みとしてフロイト派とランク派を以下のように比較しております。

このようにソーシャルワークの理論の発展において診断主義派と機能主義派は長らく続く対立が展開されていたのです。それは精神分析において偉大な功績を挙げたフロイトとその弟子ランクの出来事が大きく関わっておりました。

オットー・ランク

オットー・ランクについて

オットー・ランクは1884年にドイツにてオットー・ローゼンフィールドの第3子として誕生しましたが、親がアルコール中毒で家庭は経済的にも感情的にも恵まれなかったようです。

ランクは学校へ行きながら機械工場で長時間労働に強いられていましたが、それでも貪欲に本を読み、学んだことを日記に綴り、才能や創造力を育んできました。

やがて21歳の時に、アルフレッド・アドラーがランクをフロイトに紹介する転機が訪れました。そうしてランクはフロイトの弟子として、パリにて約20年間も研究や執筆、精神分析運動に日々を費やしておりました。

1924年に「出生外傷」を出版しました。精神分析が硬直化していたこともあり、革新的な考えをもってランクはフロイトに向けて捧げたものだったとのことです。

しかし、この新しい概念はフロイトやフロイト派の人たちに受け入れられませんでした。そしてフロイトとランクは大分裂され、間もなくランクはパリから離れてアメリカに渡り、二度とパリに戻ってくることはありませんでした。

ランクの理論

ランクは1924年に「出生外傷」を出版し、その後も「意志療法」「真理と実在」「芸術と芸術家」などを著し、「心理学を超えて」を最後とし、1939年に56歳の若さで亡くなりました。

ランクについて以下のように述べられております。

1932年に著した『芸術と芸術家』においてランクは、人間の状態にかんする彼の見解を説明した。ランクはフェミニストではなかったが、彼は女性の選択の自由を尊重し、また、母子密着のもつ重大な力を認めていた(Sward、1980ー1981)。”人生はローンであり、死は返済である”というメタファーを用い、ランクは、人生を痛ましい誕生に始まる、一連の分離であると述べた。彼は、誕生から死までの間の限られたなかで、創造的に、ユーモアをもち、そして喜んで、十分に生きることの大切さに焦点をあてた。

ソーシャルワークトリートメント(上)第13章機能理論 P502~P503

このようにランクはこれまでのフロイト派の「幼児期の出来事が本質的にパーソナリティを決定する」という概念を否定し、「人間のもつ創造的な力」を重視しました。

また「出生外傷」は、一個人でありたいという欲望と、心理的に他者とつながっていたいという願いとの間に生じる葛藤を表した言葉のようです。

ランクが「時間制限」を行ったことは、意図的な仕掛けとして、セラピストからの計画的な分離がクライエントの成長と変化を可能とすると考えられておりました。

略) 人間は独立したいと願う一方で、ずっと依存状態でいたいという願望があり、分離不安を引き起こすとも考えたのである。この葛藤は、出生時に母から分離してこの世に誕生する子どもに象徴され、「出産外傷」と名付けられた。

ソーシャルワークの実践モデル 心理社会的アプローチからナラティブまで 第2章 機能的アプローチ P20

ランクは「人間のもつ創造的な力」「個人の持つ意志」を重視し、また「過去や未来ではなく、現在という時間軸」、そして「経験すること」や「相互作用」といった過程を重視しました。

このようなランクの考え方は、フロイトとの亀裂を契機にアメリカに渡ったことで、ソーシャルワークの世界に取り入れられることになります。

タフト

当時のソーシャルワークは多くがフロイト派であった中、少数派はランクのアプローチを採用し、ソーシャルワークの中で発展させていきました。

児童心理学者として博士号を取得したタフトは、ペンシルベニア児童支援センターの里親制度部門のスーパーバイザーをしているときに、ペンシルベニア大学で教鞭をとっていたランクと出会いました。

その後タフトは、ニューヨークでランクと一緒に分析をはじめ、そして「意志療法」と「真理と実在」を翻訳するなかで、ランクの考え方や方法論に触れていきます。

タフトはランクの理論をもとに、「時間の概念」「機関のもつ機能」ソーシャルワークの中で明確化していき、機能主義アプローチを形成していきました。

とりわけ「限定された時間」を積極的なものとして治療に活用し、また、「機関の機能」「制限」という概念から積極的に効果的に活用を図りました。

「”クライエントの本当のニーズはクライエント自身も知らない”」ということから、クライエント自身のニーズは「援助を受ける状態」で発見するものとして捉えました。

タフトは「援助者の限界」を理解した上で、機関の機能を必要な制限として、クライエントとソーシャルワーカーが迷うことなく行動を起こすことができるものと考えました。

ロビンソン

ロビンソンはタフトの同僚として機能主義派の発展に貢献しました。この機能主義派の理論には、ランクの他にタフトとロビンソンがシカゴで出会った「G.Hミード」、「W.Iトーマス」、「J.デューイ」らの考えも取り入れられました。

このように機能主義派は、心理学のみならず、哲学や教育、科学や文学、芸術といった多様な分野で研究されていったのです。

ロビンソンは1930年に「ソーシャルケースワークにおける心理学の変遷」を出版し、ソーシャルワーク界においてランク派の考えを紹介しました。

ロビンソンはソーシャルワークにおける関係を「”クライエントが自分自身の問題を解決する機会を与える新しい環境”」と位置付けました。ほとんどがフロイト派という時代において、機能主義派はクライエントが自分自身で変化する力を持っているといった主体性を重視し、援助者はクライエント自身の創造力を引き出す「関係」をつくるとして理論を発展させていきました。

またロビンソンはスーパービジョンを体系化することにも貢献しました。

さらに、ロビンソンは、ソーシャルワーカーのスーパービジョンを体系化したが、これは初期の機能的アプローチの集大成として注目できる。そこでは、ソーシャルワークのスキルとして、①機関の機能の明確化、②時間の過程のコントロール、③”機関との関係における動き”と”成長”に関する理解をあげる(Robinson 1942)

このように、機能的アプローチは、創成期において、潜在的可能性、すなわち、成長する可能性を持つクライエントに対する畏敬の念と、ソーシャルワーカーの援助者としての限界を前提に「時間の利用」「機関の機能」「関係」「援助過程」といった概念を発展させたといえる。

ソーシャルワークの実践モデル 心理社会的アプローチからナラティブまで 第2章 機能的アプローチ P22

このように機能主義派は創設期としてタフトとロビンソンら2人がペンシルベニア大学でランクと出会ったことから、フロイト派中心であったソーシャルワークの世界に新しい概念を取り入れ発展させていったのです。

スモーリー

スモーリーは1965年に「ソーシャルワーク実践の理論」を出版しました。機能主義アプローチの発展においては、タフトやロビンソンの創成期、診断主義派と機能主義派の対立を経て、スモーリーの再構築期という流れがあります。

スモーリーは機能主義ソーシャルワーク実践における基本的前提として3つを掲げました。

①人間性の本質の理解

・成長の心理学を用いて実践

・変化の中心はクライエント

・社会的、文化的要因も考慮

・クライエント自身のもつ選択と成長の潜在能力を解放するよう援助

・”治療”より”援助”という言葉を用いている

②ソーシャルケースワークの目的の理解

・機関はワーカーの実践に焦点、方向性を与える

・機関はワーカー、クライエント双方を保護する

・心理社会的治療の形式ではなく、特定の社会サービスを管理する方法

③ソーシャルケースワークにおける過程概念の理解

・ケースワークは機関のサービスが利用されることになる援助過程

・過程を開始し、継続させ、終結するのをリード

・関係に関与(クライエントを分類しない、特別な治療を処方しない、予期される結果に責任をとらない)

・ワーカーとクライエントは共同して、提供された援助で何ができるかを発見する

※ソーシャルワークトリートメント(上) 第13章 機能理論 P514~515 スモーリの3つの概念を箇条書きにてまとめた

上記のようにスモーリーは機能主義派の考えを修正、拡張してわかりやすく言い換えております。またスモーリーは機能主義アプローチを集大成し、5つの原則も明確化しました。

原則1 効果的な診断の活用

診断を援助される現象の理解と捉える

原則2 時間の段階の意識的・意図的活用

時間の意識的・意図的活用は機能的アプローチを特徴づけるもの

原則3 機関の機能と専門職の役割機能の活用

・ソーシャルワークのプロセスに焦点を定め、内容と方向づけを与える

・社会と機関に対する責任を保障

・積極的に取り決めを促進する部分化、具体化

・個別性、限定性をもたらす

原則4 構造の意識的活用

・構造を活用 = フォームを取り入れる

・フォームは全てのソーシャルワーク過程をより効果的に促進する

・フォームとは、諸要素が目的にかなった特有の配置や輪郭

原則5 関係を用いることの重要性

・関係 → ”関係とは、クライエント自身が自分ではっきりさせた目的を達成しようと努力するときの核心である選択とか決定を、クライエントが独力で達成できるように援助するようなもの”

・関係の形成

・クライエントの自己決定

・自己決定を修正を加えながら積み重ねていく

※ソーシャルワークの実践モデル 心理社会的アプローチからナラティブまで 第2章 機能的アプローチ P25~27 参考・引用(部分を一部抜粋)

このようにスモーリーはこれまでの機能主義理論を分析し、修正を加えながらわかりやすくまとめていくといった貢献をされ理論をさらに発展させていきました。以上が機能主義派の大まかな流れになります。

まとめ

このように診断主義派と機能主義派はフロイトとその弟子ランクの亀裂からはじまる理論の対立が続きました。フロイト派が精神分析理論をもとに「治療」や「過去」を重視したのに対し、ランク派は成長の心理学をもとに「援助」や「現在」を重視します。

「理論には良いも悪いもない」ということを我々は肝においた上で、発展過程を辿ることは本質を探る点においても重要です。

最後にもう一度、機能主義派のポイントを簡単にまとめます。

ポイント

・ランクの理論(成長の心理学、意志療法など)

・タフト、ロビンソン、スモーリー(機能主義派の人物として)

・哲学や教育、文学や芸術などの幅広い分野を取り入れる

・機関の機能(援助の限界を理解、制限を積極的に活用、フォームを取り入れる)

・時間の制限

・過去や未来ではなく「現在」

・人間の持つ創造的な力、潜在的な可能性

・関係、援助の過程

・クライエントの自己決定(共同作業の中で発見、修正を加えながら積み重ね)

 など

以上ソーシャルワークの理論を学ぶ~機能主義アプローチ編となります。

次回は問題解決アプローチ(パールマン)を予定しております。

ここまでご覧いただきありがとうございました。またよろしくお願いします。

※参考文献

・ソーシャルワークトリートメント(上) 相互連結理論アプローチ フランシス・J・ターナー編集 米本秀仁監訳 中央法規 第13章機能理論 P498~531

・ソーシャルワークの実践モデル 心理社会的アプローチからナラティブまで 久保絋章・副田あけみ編著 川島書店 第2章機能的アプローチ P17~32

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